多摩東京大学生会

今ある社会問題や構造について、学生の視点から意見を投げかけます。

日本の借金の話

日本の借金の話~政府の借金のどこが問題なのか~

 

日本は「借金大国」であるという認識を持っている人は多いのではないでしょうか。それが自分で手にした感想なのか、それとも誰かが言っていた事なのかは置いておいて。ここでは、一般政府(国家財政、地方自治体財政、社会保障基金)の財政支出ではなく、中央政府の財政について扱うものとします。近年の国債残高(国の借金)は1000兆円をこえるとされており、過去最高を更新している状態です。というのも、年々増加傾向にある歳出規模が税収だけでは賄うことができず、国債を発見することでそれを補っているからです。1人当たりにすると、800万強になるようで、これだけ聞けば、「日本ヤバいじゃん!破綻するかも!」と考えるかもしれないが、その結論に至る前に確認すべきことがいくつかあるのではないでしょうか。財政赤字について、もう少し深く考えてみようと思います。

 

国の借金の何が問題なのか?

ストレートに考えれば、財政の硬直化により機動的な財政政策ができづらくなることが考えられます。借金返済に多くの資金を充て過ぎれば、理想的なタイミング(投資の限界リターンが実質利子率より高く、民間企業の投資では、その差がゼロにならない場合)で財政政策を行うことができなくなるかもしれません。例えば、不況時には財政政策を行うことが一つのデフレ脱却の方法と考えられていますが、これができなくなり、より経済不況が深刻化していく可能性があります。

このような硬直化を避けるため、借金を借金で返すということを続けているのが、日本政府です(もしそうでないなら、国債依存度が上がり続けることは起こりません)。では、この方法にどのような問題があるでしょうか?理論的に言えば、次の3つの条件を満たせば、国の借金はそこまで問題になりません(中谷巌2009参照)。

1) 経済が停滞期にあるとき(潜在GDPより低いGDP基準にあるとき)

2) 社会資本の蓄積が民間資本の蓄積をクラウドアウトしないこと。

3) 「国民が国債の蓄積を自らの富の蓄積であると錯覚し、消費を拡大、貯蓄にお金を回さなくなること」が起こっていないこと。

 

要は、財政赤字によって生み出されたお金が効率的に使われているかどうかが問われているわけです。配分が効率的だとすれば、それらの便益を国民が受けているわけですから、国債残高が多いということは必ずしも悪いことではありません。

Geerolf (2018)による実証研究では、日本は現在、過度な貯蓄傾向にあることを指摘しています。マクロ経済学でいう黄金律の貯蓄率(Golden-rule saving rate:Steady Stateの点で消費(経済学では幸福の物差しの一つ)を最大にする貯蓄率)をはるかに超える割合の貯蓄をしているため、社会的厚生を減らしてしまい、非効率が発生してしまっていると言えます(ちなみに黄金律が達成される点では、GDP成長率と利子率が一致することが知られています)。言い換えれば、追加的投資(機械、工場、および住宅購入)の便益がそのコスト(借入金コスト(利払い)、社債コストや株式コスト(株主から要求されるリターン)の加重平均)よりも小さいということです。よって、将来のために投資を行うよりも、そのお金を消費に回した方が、効用が増加するわけです。このような場合、政府は将来世代のために社会資本を蓄積するよりも、現在世代のために使った方がよく、極論を言えば、国民にお金を配ることで現在消費を刺激することが挙げられます。また、日本ではなくまだ投資に対するリターンの大きい外国に投資をするのも良いかもしれません。

このように、経済の状況を見ながら、財政赤字に対処していく必要があるように思えます。財政赤字をすることで、大きな便益を得られるのであれば、そうすべきですし、そうでないならプライマリーバランスを黒字化することが重要でしょう。ケインズ的考え方をするなら、経済が停滞期にある時には借金をしてでも、遊休資源や失業者を活用できるよう財政政策を行うのが望ましいということになります。

 

どう借金を減らすか?

もちろん、借金をそのままにしていくことはできません。どうにかして返済していくわけですが、方法はいくつか考えられます。

インフレーション

簡単なのは、マネーサプライを増やすことで、インフレーションを起こし、国債返済額を相対的に減らすことです。具体的には、日銀が買いオペ(国や会社の債券を買う)行うことが最も一般的です(ほかにも公定歩合を下げるなどがあるが最近は使われていない)。これには乗数効果が働き、マネーサプライを、実質利子率を低下させるまで増やすことができれば、借金を減らすことが可能です。皮肉にも、国債の額面返済のため、より国債を発行することが解決策の一つとなるわけです。ここでは、買いオペを例に挙げましたが、ポイントは実質GDPを所与(Ceteris Paribus)として、マネーサプライを実質利子率が下げるレベルまで増やせばよく、極端な例を言えば、ヘリコプターからお金をばら撒いてもいいわけです。

問題点としては、お金を貸している人に被害が及ぶこと可能性があることです。国債の例でいえば、それを保有している銀行などの財産が減るということになるからです。普通に考えれば、銀行の財産が減り、貸すお金が無くなれば、投資を行いたい企業は資金難に陥り、経済が急失速することが予想されるが今のところ、それは起こりそうもありません。なぜなら、国債を買う人がいるからです。それは信用担保のために国債を手元に置いている企業かもしれないが(今は市場の利子率が非常に低いので、銀行からの雀の涙ほどの利子をもらうよりか国債を買おうとする人はいるかもしれない)、一番の買い手が日銀だ。マイナス金利政策が取られる中、日銀が「何があっても国債を買い取りますよ」と金融緩和で宣言しており、それを皆信用しているからこそ国債を買う人が現れるわけです。額面よりも高い値段で日銀が買ってくれるという安心が国債価格の暴落を防いでいるわけです。とはいうものの、インフレーションを良き頃合いで止めることが可能かという問題もあります。インフレーションを予測した売り手は、自らの生産品をわざと市場に出さずに更なる物価上昇を待つかもしれません。この行為自体が続いていくことで、よりインフレが加速していくわけです。モラルエコノミー的発想が聞かない場合、市場経済の暴走を止めることはより難しくなるでしょう。これも意図的にインフレーションを起こすデメリットと言えます。

 

増税や政府購入の減額(Government Purchase < Tax Revenue)

プライマリーバランスを黒字化することで、借金を返していこうという、これもまたシンプルな手段になります。具体的には、歳出よりも歳入を大きくするために、政府購入の減額や増税政策などがあります。今年の10月に予定されている増税はこの借金等を減らすための一つの手段とも考えられます。さて、この財政政策を行う際で問題になるのが、景気の状況を慎重にみるということです。デフレ期に増税などを行うと消費が減ってしまい、結局税収入が減る可能性もありますし、より深刻なのは、デフレーションを長引かせてしまうかもしれないことです。理論的には、好況時には何をしなくても税収入は増えますし、不況時には減ります。よって、重要なのは、好況時と不況時を平均して、歳入・歳出の帳尻を合わせることです。それを満たす税率が消費税10%なのかは分かりませんが、現在GDPが成長しているというデータと利子率の低さを見る限り、このタイミングで税率を上げるのは間違っていないように思えます。

 

GDP成長率を利子率より上げる

アイディアは「利子率よりも所得の成長率を大きくしよう」というものです。借金の伸び率よりも稼ぎの伸び率が大きければ(r<g)、長期的に借金を返すことが可能です。現在、市場利子率は非常に低いので、この不等式は日本において成り立っています(Geerolf, 2018)。よって、この状況が続けば、日本の借金は持続可能と言えます。ただ、前述したように、r<gは投資過多over-investmentの状態を意味しています。よって、未来ではなく現在の消費を増やした方が、日本全体の効用(社会的厚生)は上がると考えられます。経済学者としては、借金は持続可能かどうかという一面的な事象のみならず、本来の目的である社会の効用最大化を考えた政策を考え、啓蒙していく必要があると感じています。

 

参考文献:中谷巌(2009)入門マクロ経済学

Francois Geerolf (2018) "Reassessing Dynamic Efficiency"